神軍ラッパは響かない

物語

【戦中編】

太平洋戦争の最中のフィリピン。餓死寸前まで追い詰められながらも鳴神喜一郎は孤軍奮闘し、生き永らえていた。ただひたすら必死に『生』を手繰り寄せていた。

家族と恋人への手紙を毎日綴るのが男の日課であった。そうでもしなければ、どこへ向かっているのか、何の為に戦争しているのかさえ分からなかったのだから、精神を手紙で保っていたようなもんである。

が、不運が喜一郎に舞い降りる。地雷が足元にあった。慎重に慎重に進んできたのに…。

喜一郎は考える。通常、足を乗せただけで爆発するのが地雷である。しかし、この地雷は爆発しない。もしかしたら、対戦車用の重量の重い物しか反応しない地雷かもしれない。

だが、新しい地雷とも考えられる。足を離した瞬間爆発するものもあると聞く。

喜一郎は、そこから動けなくなった。

一日が過ぎ、二日、三日と過ぎていく。元々食べ物がないが、スコールの寒さと日中の温度差に喜一郎の体力は更に失われていく。追い打ちをかける様にマラリアが襲い掛かり、高熱が喜一郎を襲う。

立ったまま熱にうなされた喜一郎は、目の前に突き出された黒い筒が何だかわからなかった。銃口と判断がついた時、死を覚悟した。が、ぼやけて見えなかったが西洋人の顔ではなく、極めて日本人に近い顔立ちの男だった。その瞬間、喜一郎は気を失った。

― 数時間後。喜一郎は生きている事に気が付いた。敵なのか味方なのか分からない男に体を支えられていた。

「出身はどこだ」と、男が聞く。

「日本兵かっ!」

「俺はアメリカ人だ。日系二世」

死を覚悟する喜一郎。この男もろとも一緒に爆発してやろうかとも思うのだが…。

男は、なぜか銃口は向けたままだが、撃つ気配がない。喜一郎は、男に頼みごとをする。

「このまま爆発して死んだら何も残らん。俺が死んだ事が分からなければ、家族に恩給も出ない。あんた悪いんだが、この手帳と小銃射撃優秀徽章を預ける。通りの目立つところに捨ててくれ」

アメリカ兵は、黙って受け取ったもののそこから動かなかった。

敵意、親近感、罠、一瞬の友情、様々な感情が入り乱れ、時は過ぎていく・・・・。

喜一郎は…。アメリカ兵は…。

戦場とは戦争とは何なのか。改めて戦争の虚しさを問う。

※完全な二人芝居です。

【平成編】

 カンボジアにて。男は、ある事情によって地雷撤去作業をしていた。

NPO法人の関与によってこの地にいた。

ある者は、借金地獄によって…。

ある者は、サラリーマン稼業に嫌気がさし突然思いついて…。

ある者は、自分の夢の為に…。

ある者は、自ら命を捨てるために…。

平和ボケしていた日本人である彼らは、戦争の意味を知らなかった。

大型車両で地雷を看破し、潰していくのは大手のやり方。が、彼らに渡されたのは金属探知機のみ。現代の地雷はほとんどが金属探知機による反応はないというのに。

そして、彼らは踏んだ。

地雷を。

地雷にはいろいろな種類がある。踏んだ瞬間爆発するもの。数分後爆発するもの。ある一定の重量を超えなければ爆発しないもの。踏んで足を離した時に爆発するもの。

踏んだのだ地雷を。彼らは救いを求め無線や携帯で連絡を取る。しかし、本部はなぜか無線の応答もない。有効な手段を得られないまま時間が経っていく。

灼熱、そして極寒の夜の帳。

そして、彼らは見るのだ。現実なのか、幻なのか…。敵を味方を。そして、自分自身を。

※序盤6人の登場人物が地雷撤去前日の宿舎でのお話。以降、それぞれがで地雷撤去に行ってからは一人芝居。(+回想の人が出ます)



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